建物性能の基礎知識/耐震性能(耐震対策)

わが国は頻繁に地震の起こる“地震大国”です。震災は災害の中でも予測がつきにくく、ひとたび大地震が起こるとその被害は甚大です。世界中を震撼させた阪神・淡路大地震では6,400人を越える尊い命が損なわれましたが、その犠牲者の実に8割以上が家屋の倒壊等による圧死が原因でした。
その多くは古い建物もの(新耐震設計基準を盛り込んだ建築基準適用以前のもの−昭和56年以前の建物)と、新旧を問わず耐力壁が少ないなど耐震性に不備なものであったといわれています。
つまり、新耐震以後の木造住宅、住宅金融公庫の融資を受けた住宅については、比較的に被害が少なかったという調査結果が報告されています。

阪神・淡路大震災から10年がたちました。昨年には新潟中越地震も発生、地震による災害の恐ろしさが改めて思い起こされます。


耐震性能の基礎知識

建物にかかる力とは?

建物にかかる力

建物には常に荷重がかかっています。
特に地震時台風時には鉛直荷重に加え水平荷重が建物に加わるので、建物の剛性を高め、荷重が一点に集中しないように建物を一体化させて強度を高めることが重要です。

建物にかかる力には、建物自体の固定荷重・人や家具等の積載荷重・雪が積もった時の積雪荷重などの垂直方向にかかる鉛直荷重と、地震(地震力)や台風(風圧力)などの横か加わる水平荷重がかかります。

鉛直力は、小屋束や柱・梁(曲げモーメントによる力の伝達)などで荷重を基礎に伝え、横からの力は耐力壁で抵抗します。耐震性を確保するポイントは耐力壁の量とバランスの良い配置です。


●部材強度の重要性

木は鉄より強度が高い?

建物に外力が加わると、建物に変形が生じ「引張り」「圧縮」「せん断」の応力が生じます。

構造材の強度比較では、木材は同じ重さなら他の材料より引張り・圧縮強度が格段と高いという結果が出ています。
地震力は自重に加速度を乗じた大きさになるため、建物重量が軽いということは建物にかかる地震力が少なく軽い材料で強い構造ということになります。

部材に生じる力・強度比較


断面積増加で強度倍増?

柱の耐力比較

部材は使用部位に適した寸法で用いることが重要です。
荷重がかかると柱には圧縮力が、梁には曲げの力がかかります。
部材の強度は樹種・太さにより異なり、120mm角の柱は90mmの柱に比べ太さでは約1.3倍、耐力は約3.3倍と増加します。
梁は曲げられる状態では断面下端に引張力が上端に圧縮力がかかり、曲げ強さは木材の断面寸法、特に梁せい(高さ)に影響を受けます。
梁せいを2倍にすると曲げ強さは4倍になり、梁せいを増すことが強度増加につながります。


木材の強度は?

集成材の規格

無垢材は、節や割れなどによる強度上の難点があり、品質にバラツキが生じます。また そりやたわみなどの経年変化が生じることもあります。

集成材は木のもつ美しさ、肌ざわりの良さなどはそのままに、収縮変化の原因となる木材中の水分を適切な含水率まで乾燥後、節や割れ等を取り除き、ひき板にし積層した木材です。

集成材は強度のバラツキがないので建物各部材に適した強度性能値と寸法を採用できる構造的に優れた建材です。

梁に必要な寸法は、【梁の必要寸法】参照。


木材の各強度は、住まいづくりの知識上手−集成材の強度を参照。
                           無垢材の強度を参照。

また、設備の配管や配線を設けるために、安易に梁や柱に穴空けや欠き込みを行うと強度不足となり耐震性が低下します。
詳しくは、構造材の欠損を参照。


建物の構造設計は?

建物の安全を確保するために行なう構造設計には、仕様規定構造計算(許容応力度計算等)の2つの手法があります。
仕様規定は、モデル化されたルールに従って、壁の必要量・壁の配置・接合金物を選定して行く方法です。簡易に対応ができますが合理的ではなく、構造計算で対応するより 概算レベル扱いとなり接合金物が相当数必要となります。当然接合金物が多ければ建物は強くなるのですが、実際、施工現場では、金物の納めによるトラブルが発生し、逆に建物が弱くなっています。

木造2階建てでも、3階建てと同様の構造計算を行なって、正しい力の流れを把握した合理的な構造計算で対応することをお勧め致します。

構造計算の重要性

許容応力度設計の構造計算(抜粋)の参考はこちらへ。



耐震性能を向上させるポイント

1,耐力壁を十分に設ける (存在壁量)

必要壁量

耐力壁とは、柱と柱の間に斜め材(筋かい)を入れ、地震時や台風時にかかる水平力に抵抗するための重要な壁です。
また 構造用合板を柱面に規定の釘・ピッチにて取り付ける面材耐力壁も多用されるようになりました。

必要な耐力壁の長さは、地震力に抵抗するために必要な耐力壁と風圧力に抵抗するために必要な耐力壁の長さの大きい方(安全側)の数値以上が必要です。

一般的には、地震力で決まりますが、平面形状が細長い建物や3階建ての場合、及び2階建ての2階部分の必要耐力壁は風圧力で決まる場合がありますので、壁量のチェックは必ず、地震時と台風時の2つのパターンでチェックを行なうことを忘れずに。
壁量計算の内容についてはこちらを参照して下さい。

地震時=各階の床面積×壁係数[必要壁量]≦(各耐力壁の実長×壁倍率)の合計[存在壁量]

台風時=各階の外壁見付面積×壁係数[必要壁量]≦(各耐力壁の実長×壁倍率)の合計[存在壁量]

耐力壁の壁倍率は、下記壁倍率となります。


壁倍率

壁係数の詳細は、こちらを参照して下さい。
壁倍率−(筋かい耐力壁)の詳細は、こちらを参照して下さい。
壁倍率−(面材耐力壁等)の詳細は、こちらを参照して下さい。
壁量計算の説明はこちらを参照して下さい。

<<壁量の安全率を多めに設定>>

本来、建築基準法では、存在壁量が必要壁量を満足(存在壁量≧必要壁量)していれば良いのですが、安全率(存在壁量/必要壁量)を高めに設定すると更に耐震性の向上が図れます。

壁量の安全率による耐震性能向上対策

尚、安全率による耐震性能アップ対応は、こちらをご覧下さい。
また、品確法の住宅性能表示等級は、こちらを参照して下さい。


2,バランスの良い耐力壁の配置

耐力壁を十分に確保しても、バランス良く配置しなければ、地震時に変形やねじれが発生、建物の倒壊をまねく恐れがあります。

建物の隅角部に耐力壁を設け、上下階の耐力壁の位置をできるだけ合わせるようにすることや、建物の重心と剛心が出来るだけ近接するように耐力壁の配置をバランス良く配置することが重要です。

建物のバランス


   偏心率は0.15以下に!

偏心率

耐力壁を、釣り合い良く配置する尺度として「偏心率」があります。

偏心率とは重心と剛心のへだたりのねじり抵抗に対する割合として定義され、その数値が大きい程偏心の度合が大きくなり、バランスの悪い建物と言うことになります。

平成12年の建築基準法の改正により、木造住宅において偏心率は0.3以下であることが規定されました。出来れば耐震性を向上させるためにも偏心率は0.15以下にすることをお勧めいたします。

尚 簡易なチェック方法として、建物の各部分の壁量充足率(1以上両端)・充足率比(0.5以上)が均等であれば耐力壁の釣り合いがよく、偏心率も小さくなるであろうという考え方で4分割法で確認する手法があります。

詳しくは、国土交通省の告示を参照。


3,接合金物は適材適所に!

接合部

地震時のかかる水平力に、接合部が耐える性能がなければ、幾ら耐力壁をバランス良く、十分に設けても意味は有りません。
それぞれの負担する応力に見合う接合部の強度が必要です。

特に重要な接合部は、耐力壁自体の取り付け金物(筋違い金物と、耐力壁を受ける柱の柱頭・柱脚金物が重要です。
耐力壁の壁倍率が大きいほど、より水平力に抵抗するために柱に大きな引抜き力が発生します。その引抜き力を押さえ込むために、ホールダウン金物などの高耐力の金物が必要となります。


柱の引き抜き

詳しくは、施工チェックポイント構造編及び接合金物一覧表をご覧下さい。

4,地盤調査の上、鉄筋コンクリートベタ基礎で!

基礎形状

木造住宅の基礎は、布基礎ベタ基礎の2種類が主に採用されています。
布基礎は逆T字型の形状で、一般的に450mm巾のフーチングで建物の荷重を地盤に伝え、しっかりした地盤の場合に採用されます。
ベタ基礎は1階部建物全面に底版を設け、布基礎よりも建物荷重を分散して地盤に伝えることで、弱い地盤の場合や2階建てよりも建物荷重が重い3階建てに採用されます。また 不同沈下を防ぐ役目も果たしています。


基礎の運用

基礎形状の運用

基礎形式の運用は、平成12年−国土交通省告示1347号にて初めて規定化されましたが、建物の安全性から階数にこだわらず、ベタ基礎を採用する事 及び 地盤の強さ(地耐力)が30kN/u以下の場合は、べた基礎でも地盤補強を行うことをお勧めいたします。

地盤の強度



●地盤調査

戸建の住宅程度の建物規模では、一般的にスウェーデン式サウンディング方式による地盤調査を行います。
スウェーデン式地盤調査では、25kg、50kg、75kg、100kgの4種類のおもりを25cm掘り下げるのに、ハンドルを何回転させたかによって地盤の強さ(N値)を算出します。

N値換算式

スウェーデン式サウンディングによる、N値換算 及び 地盤の地耐力換算はこちらをご覧下さい。

【地盤調査報告書見本】

スウェーデン式サウンディング地盤調査

地盤補強判断の目安はこちらを参照下さい。


地盤補強(地盤改良)

地盤の強さ(地耐力)が30kN/u以下の場合は、地盤補強工事が必要です。 軟弱地盤が比較的浅く地盤面下2m位までに堅固な地盤がある場合は、コストが安価な表層地盤改良工法が採用できますが、堅固な地盤が深い位置にある場合は、セメントミルクを軟弱土と攪拌硬化させて土中に柱を設ける柱状改良工法か、鋼管にて杭を施工するなどの地盤補強工事を行い、建物の荷重を支持層まで伝えます。

地盤補強


耐震性能の歴史

建築基準法が昭和25年に制定されてから、耐震性についての構造規定が昭和56年に大幅に改定されました。これは、宮城沖地震により耐震設計法が抜本的に見直され、現在の新耐震設計基準が誕生しました。この、新耐震設計基準による建物は、阪神大震災においても被害は少なかったと言われています。

しかし、木造建築物に対する構造規定は、まだまだ不確定な項目が多く、阪神大震災を教訓に さらに耐震性能の強化が平成12年に行われました。

【平成12年耐震性能の改正点】

基礎の仕様・形状の明確化

地盤の地耐力による基礎形状の運用規定
基礎杭を用いる場合の運用規定
ベタ基礎の仕様規定
布基礎の仕様規定

詳しくは、国土交通省の告示を参照。


継ぎ手・仕口の明確化

筋かいの接合金物の規定
柱頭・柱脚金物の規定

N値簡易計算による接合金物の運用規定を参照下さい。
仕様規定による接合金物の選定はこちらを参照下さい。


耐力壁の配置バランスの明確化

偏心率を0.3以下に規定

※四分割法・壁充足率・壁比率・偏心率の計算による運用規定

詳しくは、国土交通省の告示を参照。


■ 耐震性能の歩み

耐震性能の歩み


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